『本屋、はじめました』(辻山良雄 著)という本を、久しぶりに手に取りました。何年も前に一度読んだことがある本なんですが、最近になって「また読んでみよう」と思ったきっかけがありました。僕の最寄り駅にあった本屋が、ついに閉店してしまったんですよね。駅近くにあったあの本屋。仕事帰りやちょっとした空き時間に立ち寄って、気になるタイトルを手に取って……そんな「本屋のある日常」が、ふっと消えてしまった。本屋が街にないって、めちゃくちゃ喪失感があります。もちろん、理由は分かります。本なんて今や電子書籍で買えるし、そもそも活字離れだって進んでいる。YouTubeもSNSもゲームもあるし、本にわざわざ時間を割く人が減っているのは、もはや当然の流れですよね。でもやっぱり、僕は「本屋がある世界」の方が好きだなって思ったんです。「あの本屋がなくなったのは、仕方ない」と言ってしまえばそれまでだけど、もっとあの場所で本を買っておけばよかったなとか、本屋の存在を周りにもっと広めておけばよかったなとか、今さらながらに後悔してしまいました。(個人の力ではどうにもならないとは思いつつも、もっと頑張れなかったかなと思ったり...)そんな気持ちで再び手に取ったのが、『本屋、はじめました』。著者の辻山さんは、リブロという大型書店に長く勤めていた方で、池袋本店の店長まで務めた人。あの池袋のリブロが閉店するときまで関わり続け、閉店をきっかけに独立して「Title(タイトル)」という書店を立ち上げたそうです。この本では、その独立から開店までのプロセスが、「事業計画書」「BS/PL」まで公開して詳細に語られています。売上も、役員報酬も、BSもPLも、全部公開。ここまでさらけ出してくれるのかと驚くくらいです。本屋というビジネスの裏側を知る意味でも、起業を考えている人や数字好きな人にとっても、めちゃくちゃ面白い一冊だと思います。将来は本屋を作りたいそして、僕自身――これは夢物語のような話ですが――自分のビジネスがもっと軌道に乗ったら、余剰資金で「本屋を建てたい、本屋を運営してみたい」と思ってしまいました。もちろん、何の計画もノウハウもないんで、限りなく無理ゲーなんですが……でも、夢としては、いいじゃないですか。本屋で利益が出せるイメージは今のところ全くないですが、本屋が運営できるほどの余力のあるくらい本業で稼いでみたいですね!そんな思いで、今この本を再読しています。次のセクションでは、この本の中で特に印象に残ったエピソードを紹介していきます。池袋リブロから、人生を賭けた一歩へこの本の冒頭は、辻山さんが大手書店リブロに勤めていた頃の話から始まります。彼はずっと本屋で働き続け、着実に社内でキャリアを積み上げ、ついには池袋本店――あの巨大な9階建ての大型書店の責任者を任されるほどになります。池袋リブロという書店の存在感は大きく、まさに「街の顔」ともいえるような場所。その現場を任されていたというのは、相当な重責だったと思います。でも、そんなお店も、さまざまな事情で閉店を余儀なくされます。そして彼は、その閉店の瞬間まで、本屋としてその現場に立ち会い続けました。このあたりの描写がとてもリアルで、本屋の美しさと同時に、時代の流れや企業の論理の中でのやるせなさも感じさせられます。それでも「本っていいな、本屋ってやっぱり素敵だな」と、読んでいてあらためて思わされました。独立への一つのきっかけそして、彼が本格的に独立を決意するきっかけとなったのが――お母様の死でした。彼はこう書いています。「母が死んでいくのを見届け、次は自分の番だと初めて体で実感しました。自分に残されている時間は無限ではないということも、その時強く強く意識しました。」この言葉に、僕はかなり揺さぶられました。著者のように、僕も起業したばかりの時期にこの本を読んだので、「いつか来る自分の番」という言葉に、妙に現実感がありました。お母様が残してくれたお金は「自分のためのお金ではない」と思った彼は、それを資金にして本屋を作ろうと決意します。ただの商売としての本屋ではなく、「来る人がその人自身に戻れるような落ち着いた場所」「さまざまな人が行き来し、新しい知識や考え方を持って帰るような場所」を作りたい、と。このエピソードを読んだとき、僕自身も「やれるうちに、やっておきたいことをやりたい」という感覚を、あらためて強く抱かされました。人はいつか死ぬ。だから、いまをどう使うか、ですね。ここは、ビジネス書というよりも、人生について考えさせられる章でした。本当に共感できるし、すごくいい話だと思いました。本屋開業までの具体的で「リアル」な全プロセス後半は、辻山さんが本屋を開業するまでの一部始終が、驚くほど詳細に書かれています。とにかく「リアル」なんです。夢や理想だけでなく、現実的な準備・経営・資金の話まで、すべて包み隠さず語られているのがすごい。よくあるビジネス書だと具体的な話をしないので(まぁどうしても普通は具体的な情報は社外秘なので出せないですよね。)、結果、ふわっとした概念的な話だったり、ふわっとした教訓だけに終わったりしますよね。でも、この本は実際にこの著者が歩んだプロセスを描いているので、非常にリアルなんです。非常に具体的で面白かったです。まず最初に取りかかったのが「どの街でやるか?」という問題。地道に町を歩き回り、家賃や立地、街の雰囲気を調べながら候補地を探していきます。そして、店舗の名前をどうするか、新刊か古本か――そのあたりの方向性も一つひとつ丁寧に考えていきます。著者は長く新刊書店に勤めていたため、古本ではなく新刊書店で勝負することを決意。また、本屋だけでは利益が出づらいという現実も踏まえて、カフェを併設するプランも練り上げていきます。カフェなら利益率が6〜7割と高く、本屋の厳しい経営を補える、という冷静な分析もありました。(しかし、普通にカフェをやっていくだけでも飲食業界は難しいのに、カフェよりも利益率が全然低いとは本屋は本当に厳しい... なんとかならないものか。。こんなんだと本を書きたいという人もいなくなってしまうのでは。。もっと本業界を盛り上げていきたい!)内装業者を探し、取次(本の流通に関する業界特有の仕組み)と交渉し、本の選び方・並べ方にも徹底的にこだわる。その一つひとつが「経験者だからこそ語れるリアル」ですね。(と考えると僕が本屋をやりたいというのはやはり無謀か...笑)さらに、レジのシステムをどうするか、ブックカバーのコストは?ロゴはどうする?奥様と一緒に運営するカフェのメニューは?など、書かれており、まさに“現場感”が詰まっていました。そして特筆すべきは、本の最後に経営計画書のような資料がそのまま載っている点。店名や立地戦略、業態の説明、図面、コンセプト、初期投資計画、発注イメージ、カフェのメニューと価格、Webページ仕様メモ、実績データ、損益計算書(PL)まで、まるで本屋開業版のビジネスピッチ資料のように並んでいます。ここまで赤裸々に、しかもリアルな数字を開示している本は、他にあまり見たことがありません。本屋という夢を形にするための一歩一歩が、リアルな手触りで伝わってきます。ちなみにこのお店「Title」は、僕の家からそこまで遠くない場所にあります。前から気になっていたけれど、まだ行けていなかったので、これはぜひ近いうちに訪れてみたい。できれば店長にもご挨拶してみたいと思いました。