本屋が消えていく寂しさ最近、最寄り駅前の本屋が閉店したのをきっかけに、私は「町の本屋はいかにしてつぶれてきたか」(飯田 一史 著)という本を手に取りました。「自分の街の最寄駅に本屋がないなんて」という悲しい気持ちを抱えていた私にとって、この本はまさにその問いに正面から向き合った内容でした。僕は本屋のことを何も知らなかったので、本業界には意味不明で「え!」と驚くところが非常に多く、大変学びになりました。(ただ後半本業界に特化して難しかったので、飛ばしてまとめだけ読んだりもしちゃいました)今回はこの本の感想を書いていきたいと思います。本が売れなくなったのはネットやスマホのせいではない。多くの人が「本が売れなくなったのはスマホやネットのせいだ」と思っています。本屋業界はずっと犯人探しをしていたそうです。1990年代には漫画喫茶やブックオフ、2000年代にはネット、2010年代にはスマホが登場しました。でも、この本の著者は「本屋は昔からずっと苦しかった」「ずっと潰れてきた」と言います。1960年代後半の調査でも、すでに中小書店の多くが赤字だったそうです。つまり「昔はよかった」というのは幻想で、電子書籍のせいでも活字離れのせいだけでもなく、そもそも大昔から「本屋」は常にしんどいわけです。それは仕組みの問題のようです。商流の歪み:出版社 → 取次 → 本屋まず、本の流通の基本構造を押さえておく必要があります。本は、「出版社 → 取次(問屋) → 書店」という流れで流通します。この“取次”が本当にクセ者で、この仕組みが本屋にとってかなり不利に働いています。売りたい本が手に入らない。まず、「本屋は売りたい本を買えない」のが大問題だと思います。本屋は取次に本を注文しますが、「〇〇の本を20冊ください」と言っても「2冊しか」来ないとか、あるいはあとになって何も送れないと言われたりとかが、ザラだそうです。。何その業界、、、って思いますよね。本屋は「定価販売」の縛りから逃れられない普通の商売は「売上=客数×客単価×頻度」で成り立ちます。でも本屋は定価販売が原則なので、売れ筋の本を高く売ったり、売れ残りを安くしたりできない。つまり、売上を上げる工夫の幅が極端に狭い。しかも、本屋の粗利(取り分)はたったの22%前後。しんどい!これだけで「儲かるわけがない」というのが分かります。実質「委託販売」なのにキャッシュフローが最悪本の商売は実質「委託販売」と著者は言っています。定価を決められず、売れなかった本は返本できるこの仕組みは確かに委託販売と言ってもいいでしょう。でも実際には最初に仕入れの支払いをして、しばらく本を店に置いて、返本したらその後返金は2ヶ月後とかになります。つまり、本屋は先にお金を払って、売れなかったらようやく後から返ってくる仕組み。キャッシュフローが悪いですよね。この間の資金は取次が預かってる状態なので、取次だけがキャッシュフロー的に潤っていく。実質半年くらい本屋からもらったお金をプールできるわけです。この構造だけでも、本屋はずっと資金繰りに苦しむことになります。「見計らい配本」という謎システムさらに理解不能なのが「見計らい配本」。本屋が注文したわけでもないのに、「これ売れると思うから置いてね」と取次が勝手に送りつけてくるらしい。。え、まじで?って話。。書店はその時点でお金を払わないと行けない。なんで勝手に送られてくる、しかも売りたくもない本にお金を払わないといけないのか。。もちろん、売れなかったら返本できます。でも返本には手間がかかるし、返本率が高いと取次からの評価が下がる。結果として返本が多い本屋は、本当に欲しい本を注文しても「アイツら返本多いから」と言われて送ってもらえない。完全に悪循環です。・売りたい本は手に入らない。・値段は自分で決められない。・要らない本を送りつけられ買わされる。・その要らない本を売り捌けなければ評価が下がり売りたい本を売ってもらえない。ちょ、ちょっとしんどすぎない、このビジネス!インフレでも値上げできない。インフレになるととにかくしんどい。人件費も紙代も何もかも上がっているのに、本の定価は据え置き。インフレが起こると、出版社はまず紙の値段を抑えるよう工夫したりして「なんとか定価を据え置きに」しようとします。これをやられると本屋は本当に困る。本の原価は変わらないかもしれないが、インフレは人件費やすべてに関わってるので、定価を上げないとどんどん苦しくなる。でも本屋には定価で売り、利益率も22%程度でほぼ固定。厳しい。。以下のセリフが著者の最も言いたかったことではないかと思います。出版社は長年、インフレに負けず本の定価の値上げ幅を抑えてきたと誇ってきた。これはその分の負担を書店や取次などに押し付け、中小書店を潰し、結果自分たちの首を絞めてきたと自慢しているのに等しい。昔の本屋はどうしていたか。前述の基本的に本屋は昔から儲かっていないです。なので兼業で凌いでいました。わかりやすい例は、ビデオレンタル・CD屋との兼業です。よくありましたよね。ビデオレンタル・CD屋との兼業を発明だと著者は言っていて、これにより利益率が劇的に改善されたようです。(でもこれって本屋じゃなく単にビデオ屋ですよね😅)でも、誰もが知ってるように、今やビデオやCD屋さんは時代の流れとともになくなっていき、それと合わせて本屋もなくなっていく。。そして、現代においてビデオレンタル・CD屋とのコラボほど美味しい兼業先を本屋は見つけられていないのが現状だそうです。出版物のPOS精度を高めるのはなぜ難しいのか?この本では、出版業界でPOSシステムの導入がいかに難しかったかという話も出てきます。1981年に日本でもISBNコードが導入されることになったんですが、これに対しても反対の声がたくさんあったらしいです。「本の総背番号制だ!」みたいにいって反発したそうです。コンピュータによる合理化は大量販売にしか役立たないとか、出版がコンピュータ産業の下に置かれるのはおかしいとか…。マイナンバーに反対する人みたいな感じで、合理化や効率化に強く抵抗する人たちがいたそうです。筆者も「なぜそんなに抵抗するのか?」と疑問を投げかけています。書店には「スリップ」という紙が本に挟まれていてますよね?昔はそれが注文表にもなっていました。著者名や書名が書かれていて、販売時にそれを抜き取って出版社に送ることで、販売状況の把握に使われていたそうです。でも、そんなのってポスレジがあれば一発で済む話ですよね。スリップは紙なので、一定期間溜めてからまとめて送る必要があって、タイムラグもあるし正確性も劣る。なのに「スリップでも何とか把握できるからいいじゃないか」って言って、POS導入に反対する人がいっぱいいたそうです。切ない…。そんな間に、セブンイレブンなんかはガンガンにシステムを導入して、POSや在庫管理の最適化をどんどん進めていった。書店側も「そういうのやりたいな」と思ってたのに、上記のような事情により出版業界全体ではなかなかできなかった、、、と。Amazon登場|データ分析による高い在庫回転率そこにアマゾンがやってくる。上陸当初、出版業界の人たちは「日本ではうまくいかない」とタカをくくってたそうです。。本の値段は安いし、書店のマージンも薄い。ネット通販にはクレカの手数料もかかるし、送料はせいぜい4〜500円しか取れない。そんな状態で巨大なシステム投資なんてペイできるわけない。と。しかし、アマゾンは送料無料にする仕組みを作り、プライム会員などを作り、キャッシュフロー・コンバージョン・サイクル(CCC)が高く、そしてデータ分析による効率化でどんどん頭角を現していった。よく「アマゾンはロングテール戦略で成功した」って言われますけど、実際にはそうじゃない、とこの著者は言っています。単純に在庫回転率が圧倒的だったすようです。一般の書店は在庫回転率が年に4〜6回。しかしAmazonは年に18〜20回。圧倒的...!返品率も業界平均が30〜40%のところ、アマゾンは既刊で3%、新刊でさえ20%まで下げた。桁違いの効率。。過去のデータから需要を予測して、自動で在庫を補充する仕組みまで整えてる。ここで悲しいのが、これはまさに、日本の書店業界が「セブンイレブンのPOSに対抗しようと息巻いていた時の書店の人が夢想していた形に近い」と言っています。あああーー!あの時対抗勢力がなく全力で進めていれば今頃Amazonじゃなくても効率的な書店業界になっていたのではー!?と思っちゃう。。「変化を受け入れるカルチャー」や「新しいことに挑戦する人を応援する社会」って大事だなって、改めて思います。本屋のある街を作りたいでも本屋あった方がいいなーって思わないですか?ネットで買うと便利だけど、本屋が街にあると立ち寄って、新しい本当の出会いがあったりわくわくしないですかね?なので、いつか大金持ちになって本屋を作って運営してみたいなー・・・なんて思います。