今回は、ダニエル・L・エヴェレット著『ピダハン』について紹介します。この本は、アマゾン奥地で原始的な生活を送るピダハン族と彼らの言語をテーマにした一冊です。ピダハン族は現在、人口約400人ほど。外部の言語や文化とほとんど関わりを持たない彼らの生活は、非常に独特で興味深いものでした。ピダハン族の言語:左右も色も数も過去形もない。本書で特に驚かされたのは、ピダハン族の言語と文化の特異性です。彼らの言語には、未来形も過去形もありません。また、東西南北の概念や数の概念、さらには色を表す言葉すら存在しないのです。この言語の背景には、彼らの文化的な価値観が深く関わっています。ピダハン族は「今この瞬間」に焦点を当てた生活を送っています。過去を振り返ったり、未来を心配したりすることがなく、目の前の出来事や状況だけに集中する生き方です。その結果、彼らには未来への不安や過去への後悔がほとんどなく、精神的に非常に安定しているんだと。これは、現代社会でよく話題になる瞑想やマインドフルネスの考え方と通じるものがあり、非常に興味深い点でした。子育てと教育方針の衝撃ピダハン族の子育てや教育方針も驚くべきものでした。例えば、2歳の子供がナイフを振り回しても、親は止めません。焚き火の近くで遊んでいても注意しないのです。危険を未然に防ぐのではなく、子供自身が失敗を通じて学ぶことを重視しているのです。これは現代の私たちの感覚では信じがたいものでしたが、自ら経験することで学ぶという姿勢には学ぶべき点もあると感じました。さらに驚いたのは、母親が子供を産む際、一人でアマゾンの川に入って出産を行うという事実です。その際、もし母親がうまくいかず苦しんでいたとしても、村の人々は決して助けることはありません。彼らの価値観では、助けが必要な存在は自然淘汰されるべきであり、無理に延命させるのはよくないと考えているからです。自殺についての考え方本書の筆者、ダニエル・L・エヴェレットは、ピダハン族の言語を研究するために家族を伴い、アマゾンの奥地で彼らと共に生活しました。彼の冒険心と使命感にはただただ驚かされます。また、彼はもう一つの目的である「キリスト教の布教」も試みましたが、大きな壁に直面します。彼は、かつで自分の身内が自殺したことで大きな絶望を感じたが、宗教があったことで自分は乗り越えることができた、のようなエピソードを共有しました。宗教的な救いの重要性を説いたところ、なんと、ピダハン族の反応は、「大爆笑」でした。「自分で自分を殺すだって?ピダハンはそんな馬鹿なことをしない笑」といって笑ったそうです。彼らにとって、過去や未来に縛られず、今を生きるという生き方は、自殺という概念すら理解不能なものだったのです。ダニエルの結末この長いピダハンとの生活の末、ダニエル自身はキリスト教の信仰を捨てる決断を下しました。神を捨てたのです。その結果、妻と離婚、子供たちとも断絶するに至ります。あの、妻と子供がマラリアにかかり死にかけた経験さえ乗り越えたこの家族が別れることになるなんて、、、と私は読んでいて衝撃を感じました。このものすごい冒険譚の最後のオチが家族の崩壊なのかと。この結末は悲しいものでしたが、同時にピダハン族の生き方や価値観の力強さを感じさせるものでした。