こんにちは。今回は、インド・ハイデラバードへの出張に同行する機会をいただき、現地で得た学びについて書いていきたいと思います。出張の背景:日本の過疎地とインドの大学生をつなぐ試み今回のインド行きは、ある知人からの紹介がきっかけでした。その方は教育支援活動を行っていて、日本のある過疎地の高校とインドの大学生をつなげることで、教育の現場に新しい化学変化を起こせないかと模索していました。目的は、「探究学習」に力を入れている日本の高校と、海外の若者との協働の可能性を探ること。今回はそのための視察という形で、私もお試し参加のような立ち位置で同行しました。現地に行かずとも、移動の中にある学び実は今回の視察で最も学びが多かったのは、現地の誰かというよりも、一緒に旅をしていた日本側の教育関係者の方々との対話でした。同行していたのは、国語の先生と、この旅のきっかけを作ってくれた女性の2人。飛行機や移動の合間に自然と交わされる会話の中に、非常に濃い学びが詰まっていました。国語の授業とは何か?という再発見同行していた高校の先生(国語の先生でかつ探究学習の専門家)から聞いた話の中で、特に印象に残ったのが、国語の授業で大切なことは何かという話です。個人的に、国語に重要なことは、要はたくさん本を読むことでしょ、と思っていたところがあったので、それ以外で何が重要で、授業として何を教えることが大事か、という質問をしてみました。いくつか説明いただきまして、その中でたとえば「仮説と事実を混ぜずに話す」ということができるようになる、ということが挙げられました。たとえば、「ここからは私の仮説なんだけど…」「これは事実として確認されていることだよね」というように、思考の前提を丁寧に切り分けながら対話を進める。仕事でもよく仮説と事実をごっちゃにして話してしまう人はいますよね。そういうことを学ぶのも国語の授業だといっていました。なるほど、と。ビジネスではよく言われてることでビジネススキルとして学ぶことだと思ってましたが、国語力であり国語の先生はそういうところも意識してくれている、と。もっと真面目に国語の授業を受けていたらよかったかもしれないですね。この旅で国語の先生と同行できたおかげで、国語の重要性も考えさせられました。探究学習とは何か?のリアルな姿また、今高校で必修化されている「探究学習」の実際の取り組みについて聞けたことも有意義でした。「生徒が自ら課題を設定し、情報を集め、分析・考察して、解決策を考え、実践していく学習活動」ですね。たとえば、生徒が地域の街に出て、課題を見つけ、それに対して仮説を立てて、「こう改善すればいいのではないか」と提案を考える——というプロセスです。これについて興味を持ったので掘り下げて聞いてみました。街に出て何か課題を探しても、「これってこうすればいいんじゃない?」なんて僕らも常に安易に思いついて言ったりしますが、実際には多くの先人がすでにそれを検討済みで、検討・調整をしまくった結果の落とし所が今の状態だったりしますよね。それを外部の人が思いつきで言っても浅はかな指摘でしかない、なんてことは仕事でもよくありますよね。子供達が一生懸命考えてもそんな結果にしかならないんじゃないか、という疑問を持ったので聞いてみました。すると、「実際そういうことも多く、それのプロセスも重要」とのことでした。自分なりの解決策を考えてみて、そこからその背景を役所の人や専門家に聞いてみる。結果、「実はそれができない理由があった」という壁にぶつかる。そして。その“壁にぶつかり、理由を知る”という経験こそが、本当の意味での学びだというのです。これはまさに、社会の複雑さを身をもって学ぶプロセスであり、単なる知識の習得ではない「深い学び」がそこにあるのだと実感しました。インドのカレー、美味しい。今回の視察では、ハイデラバードにある IIT(インド工科大学) にも訪問する機会がありました。インドのIT系大学No.2の、インドの優秀な若者たちが集まる場所です。そのIITの中で、先生方が利用する若干良い感じの学食に連れていっていただきました(生徒が通常使う学食はもっと安いところ)。いわゆる「先生用食堂」的な、ちょっと高級感のある食堂です。出てきたのはもちろん、カレーとチャパティ、そして鶏肉。美味しいですね。大満足。周囲を見渡すと、食べ方にも文化を感じました。手で食べている人が半分、スプーンを使っている人が半分くらいの印象で、若干、手食の方が多いように思いました。個人的には、以前バングラデシュを訪れたときもほとんどの人が手で食べていたことを思い出しました。実際、私も過去に試したことがありますが……指って意外と短くて使いづらいんですよね(笑)。結構難しいです。箸の方がリーチが長いので便利ですね笑インドで出会った日本人教授と語る、ブロックチェーンの本質ハイデラバード滞在中、現地の大学で十数年にわたって教鞭を執っている日本人の教授とお話しする機会がありました。専門はITネットワーク系で、特にブロックチェーンの研究をされている方です。私自身、IT業界に携わってはいるものの、ブロックチェーンについてはあまり深い知識がないのですが、数年前のWeb3ブームの際に多くのプロジェクトで「ブロックチェーン」の名前だけが先行していた印象を持っていました。正直なところ、「ブロックチェーンって本当に必要?」「あのWeb3ブームは何だったんだ?」という懐疑的な気持ちが少しありました。ブームへの辛辣な見解そんな率直な疑問を教授にぶつけてみたところ、「あのブームを煽っていた人たちは、みんな撲滅すればいいと思ってるんですよ(笑)」なるほどというかやはりというか、まさにブームに対しては批判的でした笑。教授自身も、Web3の熱狂的な広がりには否定的な立場であり、「流行に乗って無理やりブロックチェーンを使ったシステムを作ることには意味がない」のようなことをおっしゃっていました。その方の研究対象は「ブロックチェーン同士をつなぐプロトコル」。現在世の中には複数のブロックチェーンが乱立していて、それぞれが独立したネットワークになっていることが多いですが、インターネットが一つであるように、ブロックチェーンも異なるチェーン間をつなぐ仕組みを技術的に整備していくことが今後の課題だと考えておられるそうです。このかたの場合、そんな非常に難しい領域の研究をしてるにも関わらず、人と人、インドと日本を繋ぐコミュニケーションの役割も得意とされている点が素晴らしいと思いました。人当たりもよく、尊敬できる方でした。IITの学長と語る、日本の高校との連携の可能性今回の視察の中でも、特に重要な位置づけだったのが、IITハイデラバードの学長との面会でした。この旅の大きな目的の一つは、日本の過疎地にある高校と、このIITという世界有数の理工系大学をつなぐこと。その実現に向けたプレゼンテーションの機会をいただけたのです。日本をよく知る、親しみやすい学長実際にお会いした学長は、とても親しみやすく、日本との関わりが深い方でした。筑波大学に2年以上在籍していた経験があり、日本全国を回ったことがあるとのこと。島根、北海道の北見、その他の地方都市まで訪れていたという話を聞き、「そんなローカルな場所まで?」と驚くと同時に、とても嬉しい気持ちになりました。簡単な日本語も交えながら会話してくださり、「親日家であり、教育に対して柔軟な感性を持った方」という印象を強く受けました。探究学習と“ファインダー”という概念の共有私たちからは、日本の高校で現在注力している「探究学習」の取り組みについて説明しました。探究学習とは、単なる知識処理を行う“プロセッサー”を育てるのではなく、自ら問いを立てて学びを深めていく“ファインダー(探究者)”のような人材を育てていく教育方針です。その中で、数名の生徒をハイデラバードに送り、IITの学生と協働して社会課題に取り組む共同プロジェクトを行えないかという提案を行いました。これに対して学長は、とても前向きに受け止めてくださり、快く了承してくれました。本当にありがたく、感謝の気持ちでいっぱいでした。英語力とプレゼン力への気づきこのやりとりはすべて英語で行われました。僕は聞くだけの立場でしたが、学長の言葉は8割程度理解できた感覚があり、自分の英語力が少しずつ伸びていることを実感できたのはうれしい発見でした。(学長の英語、分かり易かったなー。。その後別の人たちのプレゼンを聞く機会がありましたが、ちんぷんかんぷんでした。。精進します。)また、同行者の英語での秀逸なプレゼンとやり取りをその場面を見ていて、「自分の英語力および交渉の場でのスキルの不足」を痛感。やはり、英語でのプレゼン力・交渉力・瞬発力などを総合的に高めていく必要があると強く感じさせられました。インドのスーパーマーケットハイデラバード滞在中、学内のスーパーマーケットにも立ち寄りました。現地の感覚が垣間みれるのでこういうところに行くのも海外出張の醍醐味ですね。1 kg 54ルピーのバナナ果物コーナー。バナナが 1 kg=54 ルピー(約 90 円)。1ふさの値段ではなく “1 kgでこの価格”ですね。バナナは最近高いのでいいですね。パッケージに刷り込まれた「20 ₹」の謎お菓子売り場では、スナックの袋に 「₹20(20ルピー)」 といった値段が印刷されているのが目につきます。値札が貼られているのではなく、値段がそもそもパッケージに印刷されているんでよね。「なんで?」って思いません?聞いてみたところ、教授が答えてくれました(教授、なんでも知ってるなー)。これはインドの制度 MRP(Maximum Retail Price)というものらしく、再販時の最高小売価格をあらかじめパッケージに明記する仕組みです。売り手は MRP を上回ってはいけないそれより安く売る(値引きする)のは自由これはなんでだろう。「ぼったくり防止装置」 なんですかね?消費者としては価格の上限が見える安心感があり、メーカーは「この値段以上では売れませんよ」と宣言しているわけです。興味深いですね。スナック袋が “パンパン” なのは訳があるさらに面白かったのが、ポテトチップスの袋がやたらと膨らんでいること。現地の友人曰く、「パンパンなのは “無事な証拠”。しぼんでいるやつは袋に穴が空いていて湿気った危険品かも」インドでは“袋の張り”が品質判断の目安になると。面白い豆知識でした。また、物流が弱く、特に冷凍する仕組みが弱いそうです。なので、アイスなどをネットで頼んでも、うまくいけば冷たい状態で届くものの、物流がうまくいかなければ長時間炎天下の元に晒されてから届く、、、みたいな感じだと教えてもらいました。インフラの難しさですね。鈴木イノベーションセンター(SIC)訪問:インド社会に“感謝”で挑むスタートアップ支援ハイデラバード滞在中、私たちは「鈴木イノベーションセンター(Suzuki Innovation Center, 通称SIC)」も訪問する機会がありました。ここは日本の自動車メーカー・鈴木(SUZUKI)のグループ会社であり、新しいスタートアップを次々に立ち上げている拠点です。「収益」より「社会課題の解決」を優先する実験場SICでは現在、約20名のスタッフが在籍し、それぞれがプロジェクトのリーダーとして自律的に1つのスタートアップを運営しているとのこと。特徴的なのは、どのプロジェクトもまずは「社会課題をどう解決するか」にフォーカスしており、収益化はその先にある、というスタンスです。たとえば、農家から高値でミルクや野菜を買い取り、プレミアム価格で都市部の消費者に翌日配送するサービスなどを展開しており、すでに年間売上1億円規模まで到達したプロジェクトもあるとのこと。これは非常に現地ニーズに合ったモデルであり、リアルなインドの課題を捉えているなと感じました。「半年だけ、まずやってみる」というカルチャーSICでは、アイデアが出たら「半年だけ試す」という進め方を基本としており、“とりあえずやってみる”カルチャーが根付いているそうです。ただ、とはいえ企業なので企画案を採用・不採用する基準があるはずだと思いました。そういった質問したところ、投資対効果よりもインドの「次の10億人」に貢献できるかを優先して決定してるという答えが返ってきました。その判断の根底にあるのが、インドに対する鈴木の“恩返し”という想いでした。実は、鈴木の世界売上の約60%がインド市場から生まれています。まだ他社が進出していなかった時代に、同社はいち早くインドで製造ラインを立ち上げ、市場開拓をしてきた結果、今やインドは鈴木にとって最大の収益源となっています。この「インドへの感謝」がSICの活動方針に強く影響しており、「利益を出すことが第一」ではなく、「インド社会に本当に貢献できるかどうか」がすべての判断軸になっているのだそうです。すごくいい話。。インドと中国の人材育成の違いから考えた「経営者としての学び」今回の滞在中、とある方が語ってくれたインドと中国の教育思想の違いについての話がとても印象的でした。まず、インドのエリート大学であるIIT(インド工科大学)には、理数系に特化した学生たちが集まっているとのこと。彼らは、歴史や音楽といった“教養科目”をあえて切り捨て、数学・物理・ITなどの分野に絞って徹底的に学んできた人材です。いわば「技術特化型」。彼らは間違いなく、テクノロジーを前進させていく推進力となる存在です。一方で、中国の教育はまったく違う方向性を持っているという話がありました。彼らは全教科主義だと。中国では、たとえば共産党の上層部に行くような人材は“すべての分野”を学んでいる。また、中国では上に行く人は「IT」などではなく「歴史」が重要、だそうです。ある人はこう言っていました。「ITなんて学ばなくていい。技術は人にやらせればいい。大事なのは歴史を学ぶことだ。歴史を振り返ると、すべての国は“内側から”滅びている。だからこそ、国家の舵取りをする者には歴史の理解が不可欠だ。」なるほどと思いました。私自身、アプリ開発を行うIT企業の経営者として、日々技術トレンドを追い、実装面にもある程度の理解を持っておくことが必要だと思ってやってきました。しかしこの話を聞いて、「経営者として本当に大切なのは、ITスキルだけではない」ということに改めて気づかされました。むしろ、歴史の中にこそ組織の興亡、社会の変化、そして人間の本質があり、それを学ぶことで会社という“小さな社会”をどう導いていくかのヒントが得られるのかもしれません。この気づきは、単なる異文化理解にとどまらず、自分自身の経営者としての在り方にまで踏み込んだ学びとなりました。